コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第20回

2021年2月19日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング

ある殺人、落葉のころに三澤拓哉監督が体現する地域性と国際性の幸福な融合

神奈川県大磯が舞台の、地域密着型のミステリアスな青春群像劇「ある殺人、落葉のころに」が、いよいよ2月20日から渋谷・ユーロスペースで公開されます。監督は長編第一作「3泊4日、5時の鐘」によって国際的な評価を得た三澤拓哉。本作は2019年の釜山国際映画祭への正式出品を皮切りに、6つの映画祭で上映され、2020年3月には大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門 JAPAN CUTS AWARDを受賞し、10月のイオンシネマ茅ヶ崎での限定上映は大きな話題となりました。
 守屋光治中崎敏森優作永嶋柊吾の今注目の若手俳優陣が顔を揃え、プロデューサーは映画「十年」の監督を務めた香港の新鋭ウォン・フェイパン(黄飛鵬)が務めました。緊急事態宣言下の1月下旬に三澤監督と主演の4人にzoomインタビューを行い、国際色豊かな制作の裏側や作品の魅力、コロナ禍における映画公開のあり方について語っていただきました。

後列右から三澤監督、中崎、守屋 前列右から森、永嶋
後列右から三澤監督、中崎、守屋 前列右から森、永嶋

■会うたびに触発される存在 ウォン・フェイパンとの映画作り

大高:緊急事態宣言中ということもあり、本日は「ある殺人、落葉のころに」の鼎談をzoomにて行なわせていただくことになりました。今日は三澤監督とキャストのみなさんに集まってもらいましたが、まず僕が一番気になっているのは香港人プロデューサーのウォン・フェイパンさんです。彼と一緒に制作することになった経緯を教えてださい。

三澤:2015年に釜山国際映画祭のアジアンフィルムアカデミーというワークショップに僕と彼が参加していて、そこで出会って友人になりました。この映画は2017年の末に撮影したんですけど、その半年くらい前の2017年5月にフェイパンが日本に滞在してたんです。その時僕は撮影に向けて脚本とかロケハンを個人的に進めていて、その相談を彼にしてました。話していくうちに「もし彼がプロデューサーや制作に加わってくれたら面白いだろう」ということで声をかけました。この映画の企画は、実は2016年に一度トライしようとして頓挫していたんです。フェイパンが入ってからはカメラマンとキャストも香港から来てもらったりと、映画の中身も制作の体制もかなり変わりました。英語が飛び交う現場だったので、語学が堪能な(中崎)敏くんや優作に助けてもらったりしながら、撮影しました。

大高:フェイパンさんは資金集めもしたんですか?

三澤:お金まわりは僕が自分でやりました。彼は人的なサポートや、本来お金がかかるところを彼の人的な手腕によってお金がかからないようにしたり、そういうことをやってくれていました。

大高:じゃあ、お金の面ではそんなに国際共同制作っていう感じではないんですね。

三澤:撮影までに関してはそうですね。ポスプロから日本と香港の公開に関してはお互いでやりくりしているという感じです。
大高:前作「3泊4日、5時の鐘」も含めて、三澤監督は茅ケ崎や大磯の地域性や土地柄みたいなところを強く意識されてるのかなと思ったんですけど、フェイパンさんや外国人キャストが加わることで違う視点はありましたか?

三澤:僕としては、結果的に国際共同製作になったという印象の方が強いです。フェイバンに関して言えば、彼が香港人だとか外国人だからというよりは、一人の作り手として会う度に触発させてくれる存在だったから声をかけたという感じですかね。

大高:映画が一番最初に上映されたのって、僕と三澤監督が会った2019年の釜山国際映画祭ですか?

三澤:そうですね。映画自体は2019年の夏にはもう出来上がっていたんですが、釜山国際映画祭がやっているアジアンシネマファンドを通して制作したので、その年の映画祭で初上映しました。

大高:反応はどうでしたか?

中崎:釜山での反応はすごい良くて、終わった後も行列ができて、質問もかなり踏み込んだものが多かったです。映画好きの人がちゃんと見て、興味を持ってくれたんだなと思いました。正解がない部分を自分の感覚で見て解釈していくしかないという自由さが評価されたんじゃないかなって思います。

三澤:あんなにサインした日はないというくらい。そういう強い反応があったのは、ありがたかったです。映画祭の司会者が「この映画はいつ爆発するかわからない皮膜のような映画だ」っていう感想を言ってくれたんですね。自分でもこの映画がどういう反応をもらえるのか分からなかったので、それを聞いた時は「あっ、こういう映画なんだ。」という風に思いました。

■燃えないゴミみたいな映画

(C)Takuya Misawa & Wong Fei Pang
(C)Takuya Misawa & Wong Fei Pang

大高:僕はコロナ禍になってからほぼ映画館に行けていないので、久々に映画筋みたいなものを使ったなという感じがしました(笑)。4人とも行動原理や背景にある種のハラスメントだったり、組織内の事件が起きた時にどういう指針で動くのかが明確だったので、そこがすごい面白かったです。演じる方はなおさら難しかったと思うんですけど、最初に台本を見た時の感想と、どういう風な人物像だと思って演じていたかを聞きたいです。

森:そうですね、自分が生まれ育ったのは大阪なんですけど、その環境が割と閉鎖的な社会だったので、それと近いものを台本には感じました。でも物語自体はある町のある社会を定義しているけど、その中に色々な含みがあるので、観客には広く受け止められるのではないかなと思っていました。それでも分からない部分もすごくありましたけど…。自分が演じた和也は、家族のことをちゃんと描かれた唯一のキャラクターなので、そういう意味では感情移入しやすかったです。ああいう行動をしてしまうけど、そこにはちゃんと理由があって、何かを抱えて生きていく人物だなと思いながら演じていました。

中崎:台本を読んだのはもう随分前なのではっきりとは覚えてないですけど…僕が演じた知樹は夢の世界に行ったり行かなかったり、本当に夢の世界なのか何なのか分からないようなところにいたり、色々な階層を行き来しているような役でした。これをどうやればいいんだろうっていうのがずっとあったんですけど、監督に「智樹はバランスを取る役だ」と言われて、それを聞いてからはあまり自分の内側に入り込まないようにして演じました。他の3人の様子を見ながら、4人のバランスが崩れないように動くということを考えたら、役のことも分かってきました。誰しもがコミュニティを崩したくないし、特に自分が原因で崩したくないというのは絶対あると思います。そこで何かが起きた時に、ちょっと狡賢い感じに見えたとしても、それぞれの話を聞いて、常にその人の味方だと見せてコミュニティを保とうとするのは共感できる部分ではありました。

大高:ちなみに自分が所属しているコミュニティが不平等だったり何かしら歪だった時に、知樹はオミットしてでも保とうとする人だったと思うんですけど、中崎さんご自身はどうですか? 例えばアップリンクみたいな、好きなコミュニティなんだけどそもそも問題が内在化している時って、それを保つのか、保たない方がいいのかって判断は難しいですし、人によってはすごい大きな判断だと思うんですよね。

中崎:ああ、僕はそういう環境は割とすぐ離れちゃいますね

大高:壊すこともないけども、自分が離れる。

中崎:そうですね。無理してそこに留まるよりも、もっと違うところに可能性があるというのは分かっているので、そういう問題に割く時間は短い方かもしれません。

大高:そんな中崎さんは、智樹という役を演じるにあたってはどういうモチベーションが湧いたんですか?

中崎:僕は大学を卒業して、色んな人に触れるようになってから自分の価値観が一回壊れて、柔軟になることができました。でも自分の住んでいる世界が全てで、そのコミュニティにおけるあり方みたいなことしか考えていない頑固な時期というのは間違いなくありました。自分が確立していない時って、結構そうなりがちですよね。そういった過去の部分を思い出して、そのコミュニティがいかにその役にとって大切なのかって考えたら、モチベーションがわかってきました。

大高:ありがとうございます。じゃあそのコミュニティから離れたというか、離れていた俊役の守屋さんはどうでしたか?

守屋:うわぁ、難しいなあって思ったのが最初の印象ですね。たぶん僕は4人の中で断トツでしゃべるシーンが少ないので、台本を読んだ時は頭の中にハテナがたくさんつきました。もう全然わかんないと思って何回も読み返していると、俊の存在自体が現実なのか夢なのかというのが分かってきたんですね。僕はいまだに俊はちょっとあやふやな存在なのかなと思っているんですけど、そういう風に役を捉えて演じました。一番最初にこの狭いコミュニティを抜け出したくて抜け出したくて仕方がなかったという人物でしたが、あまり自分の意思を外に解放することもない、寡黙なタイプだと思いました。自分の意思を出す場面とか、思ってることを吐露するシーンが明確には描かれていなかったので、きっと俊は子供の頃から悶々と積もり積もった気持ちが爆発して出たんだろうなって思います。4人の中だと、俊は少し人間味がないという気がします。それでも一番最初に行動に移した人間だったので、自分が決めたことはやるんだろうな、という風に捉えて演じました。

大高:ありがとうございます。永嶋さんはいかがでしたか?

永嶋:最初に台本を読んだ時は、これがどういう作品になるのか想像が付かなかったです。でも受けた印象というかイメージは、無機質な燃えないゴミみたいな感じでした(笑)。さっきの中崎への質問で、自分がこの場所にいたらどうなのか? みたいなところで言うと、僕は割とドライな方だと思います。ここに別に自分がいなくてもいいやと思ったらバッサバッサ次に行けるタイプなんですけど、そういう意味で英太という役は僕に近い印象があったので、演じる時のストレスはなかったです。英太はわざわざいつもベストを選ぼうとしていないというか「言ってみてダメならそれはそれ」みたいな人間に感じたので、そういうところが僕と似ているなとか思いました。夢か現実か、みたいなところでの迷いはなかったですね。

(C)Takuya Misawa & Wong Fei Pang
(C)Takuya Misawa & Wong Fei Pang

三澤:今、話しを聞いてて思い出したことなんですけど、フェイパンと一緒にやるにあたって、彼がオムニバス映画「十年」の監督だというのが結構影響あったかもなって思いました。

大高:フェイパンさんは本当は監督なんですよね。

三澤:そうです。僕が自分なりの十年、日本の十年後というかこの先のことを見据えて比べた時に、香港みたいなああいうムーブメントは起きないだろうなって少し悲観的に思っています。で、今の(永嶋)柊吾の話に繋げると、この状況はまさに燃えないゴミみたいな感じだなと思って。みんな行動に移さず心の中に溜まって、蓄積されていってしまうだけみたいな。このままズルズルと現実の延長が続いていくということを、映画で描きたいという気持ちがありました。

大高:そうですね。香港と比べると日本はまさに対照的ですよね。瓶がコロコロと落ちていくインサートの部分は、すごい本質だろうなって思います。瓶も燃えないゴミですし、結局は燃えないけど、ゆっくり下っていくみたいなところって、非常今の日本の状況っぽいなって観ていて思いました。

三澤:そうですね。だから最終的にリセットしたような形で人が変わって、「ハイもう一回最初から」みたいな感じです。

大高:なるほど。そうなると、永嶋さんのおっしゃってた燃えないゴミはすごい良い表現ですね!

永嶋:よっしゃ!よっしゃ!

大高:いやいやすごいな。今の日本のコミュニティとかコミュニケーションとか社会の在り方の不気味さが出ている感じですよね。堀夏子さんが演じた千里のファムファタール的な要素というのは、監督にとってはどういう意図で入れていたんですか?

三澤: 千里は俊からすると「ここから抜け出したい」という欲望を投影する存在で、これはとてもオーソドックスなファムファタール的な要素だと思います。このようにファムファタールは個人の欲望を投影するものだと思いますが、この映画で千里はそれを越えてコミュニティの負の欲望みたいなものを投影する存在でもあります。俊、知樹、和也、英太の4人はコミュニティとしては歯車がガッチリかみ合っていて、ある意味記号的でもあります。そこにXというか未知の存在としての千里が入ることによって歯車が狂い始める。千里はただそこにいるだけなのに、彼らは揺さぶられてしまう。その街のファムファタール、という感じでしょうか。

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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