劇場公開日 2024年4月27日

「やっぱ、山はいいなあ。俺は山しかねえなあ。山、山、山、俺には山しかねえなあ。」越後奥三面 山に生かされた日々 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5やっぱ、山はいいなあ。俺は山しかねえなあ。山、山、山、俺には山しかねえなあ。

2024年5月7日
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鑑賞方法:映画館

なんと有益な記録映画だろう。あまり予備知識なしで観た。40年前にダムの下に消えた、新潟県の三面。三面川と言えば村上市に流れる川なのでその上流ということか。言葉は東北の訛に近い。海の民同志が多少離れていても生活や文化がつながっているように、山の民も同様なのだろう。この頃のオッちゃんや婆さんは当然もう鬼籍に入っているのだろうけど、画面の中では活き活きとしている。言い換えれば、土地に根付いた生活をしている。山奥という環境での暮らしが自分の生きる場所だという誇りさえにじむ。宮本常一の好きそうな土地だ。本職のナレーターではないのがたどたどしいが、慣れてくれば、フィールドワークの発表を聴いている授業のようにも思えてくる。
しかし日本は(というか地球上全てではあるけれど)、どこもかしこも、戦後からこの頃を一つの区切りとして、それまでずっとずっと受け継いできた土地土地の暮らしを捨ててしまった。便利は暮らしの方がいいと皆そっちを選んだからだ。こうした暮らしを不便と切り捨てて都会に集まったからだ。それを悪だとは思えないし、薄情だともいえない。その結果の発展によって、今の便利な世の中を享受させてもらっているのだから。ただ、この映像を見ながら、知らない土地の人びとなのにヤケに郷愁をそそられるのは事実だ。
この映画の中の暮らしには、長い年月をかけて積み重ねられた知恵と工夫がたくさんある。もちろん機械に頼ることも少なく、人手はあればあるだけいい。となると、そりゃあ家族も多いだろうし、子供だってたくさんいただろう。こういう山や、ここを下った海や、その間の宿場町や、ここかしこに人は暮らしを営んでいた。昔はどんな田舎だろうが人はけっこう住んでいたのだ。いま、旅をしてみる(僕はここ4、5年で全都道府県を旅した)と、そんな暮らしの跡がある。というか、地方にはそんな暮らしの跡しかない。でも、これが時代の流れ。カッコつけて、何とかできないか、と言ったところでできるものでない。だって、江戸時代の生活に戻れないでしょう?そしたら、この昭和の生活にだって戻れないのよ。古き良き時代、それを見届ける気分で、鎮魂歌のようなこの映画を胸に刻もう。そうそう、パンフレット、めちゃくちゃいいですよ。宮本常一好きなら、買いです。

栗太郎