劇場公開日 2024年4月26日

「紛争解決手段として戦争することの非道徳性の記録」マリウポリの20日間 テレビウォッチャーつばめさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0紛争解決手段として戦争することの非道徳性の記録

2024年5月18日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

作品の中でも語られますが、"見るに堪えない"映像の連続です。しかし、同時に人類必見の映像だと感じました。

子供が傷つき、亡くなっていくシーンには涙が止まりませんでした。

ウクライナ人のAP通信記者が、ロシアによる激しい侵略行為開始により、ほとんどの報道関係者が去ったウクライナの都市マリウポリで、20日もの間現地に留まり記録した映像を、記者本人のナレーションとともにまとめた作品です。

現地での取材開始後、初めて会話した民間人(第一村人)の老女から、ロシア軍の攻撃が怖いがどうすればいいか教えてほしいと問われた記者は、「民間人は攻撃されないから自宅に戻るのが良い」と回答。しかし、ロシアは民間人やその住宅も無差別に砲撃。まさかそんなことをする国家などあるわけがないという前提が崩れさりました(ロシアの異常性が明るみに)。

誤ったアドバイスをしてしまった後悔や、後日出会うことができた老女から自宅をロシア軍に破壊されたことを聞き誤ったアドバイスをしたことを謝罪したことが語られます。

その後映し出される数々の被害者の姿は、まさに見るにた堪えません。ドラマ「コード・ブルー」のような緊急案件が、本当に連続して起きるのです。
戦争に至るまでに、その意志決定や準備に関わる人(有権者、政治家、軍需産業従事者)には視聴を義務付けてほしい作品です。

作品が進むにつれて、攻撃してくるロシアに対する憎悪が増しますが、もう一つ憎むべきことが出てきます。

戦火の混乱に乗じて、ほぼ無人になった街で盗みを働く人間が出現するのです。憎しみを外に向けるだけでなく、内にも向けなければならない悲しさ、虚しさ。

当地の医者は、戦争をX線(レントゲン)に例えて、「こういう場面に遭遇したときに善人は善行を行い、悪人は悪行を行う。そうした人間性を映し出すのだ」と言ったそうです。

作品後半では、自宅を破壊され、全てをあきらめて、リアカーを引いて無装備かつ徒歩で避難する男性が出てきます。彼は、ポジティブな可能性を全てあきらめざるを得ない状況ですが、その中でもできる最大限の努力と生き残るための賭けをしているのだと感じられ、私には彼に対する強い尊敬の念が生まれました。

戦争が情報戦であることも作品を通じて強く訴えられます。

ほとんどの人はロシア化など望んでいない様子でしたが、あらゆる情報網を遮断された市民の中には、マリウポリでの攻撃をロシアではなくウクライナ自身が行っているなどという荒唐無稽な話を信じている人がいました。

記者がロシア軍に捕まるようなことがあれば、強制的に映像データがフェイクだと言わされるだろうから、なんとか無事に紛争地域を脱出して、世界に映像とそれが映し出す現実を届けてほしいと願う現地の協力者たちもいました。

作品の最後には無事当地を脱出したことが語られる一方、大勢の取材対象者を現地に残さざるを得なかったことに対する罪悪感などが率直に語られます。

この感覚は、テレビ番組「徹子の部屋」で、第二次世界大戦の経験者が語る、当時の疎開とか、兵役を通じて生じた人と人との別れと共通するんだろうなと感じました。

テレビウォッチャーつばめ