正義の行方

劇場公開日:

正義の行方

解説

2022年4月にNHK BSで放送され、令和4年度文化庁芸術祭・テレビドキュメンタリー部門大賞を受賞したBS1スペシャル「正義の行方 飯塚事件30年後の迷宮」を劇場版として公開。

1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が行方不明となり、同県甘木市(現・朝倉市)の山中で他殺体となって発見された飯塚事件。94年に逮捕され、DNA型鑑定などにより犯人とされた久間三千年(くま・みちとし)は死刑判決を受け、08年に刑が執行された。しかし、執行の翌年に冤罪を訴える再審請求がなされ、事件の余波はその後も続いている。本作では飯塚事件に関わった弁護士、警察官、新聞記者がそれぞれの立場から語られる「真実」と「正義」をもとに、この事件の全体像を描きながら、日本という国の司法の姿を浮き彫りにしていく。

監督はNHKディレクターとして死刑や犯罪を題材にした数多くのドキュメンタリーを手がけ、樹木希林を追った「“樹木希林”を生きる」を監督した木寺一孝。

2024年製作/158分/G/日本
配給:東風
劇場公開日:2024年4月27日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

監督
プロデューサー
岩下宏之
制作統括
東野真
撮影
澤中淳
照明
柳守彦
音声
卜部忠
音響効果
細見浩三
編集
渡辺政男
制作協力
北條誠人
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映画レビュー

4.5事後的に検証することの大切さ

2024年5月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1992年に福岡県で発生した女児2名に対する殺人事件の容疑者として、事件発生から2年後に逮捕された久間三千年元死刑囚は、終始犯行を否認していたものの、DNA鑑定の結果や目撃証言などにより死刑判決が下り、最終的に2006年に最高裁で死刑が確定、その2年後に異例の速さで刑が執行されました。本作は、30年以上前に発生したこの「飯塚事件」と呼ばれる事件に再びスポットを当て、当時事件を担当した福岡県警の刑事や、事件報道をリードした地元紙・西日本新聞の記者、そして被告人の久間を弁護した弁護士らへの取材を通じて、事件の真相や日本の司法制度、特に死刑制度について考えさせる極めて濃密なドキュメンタリー作品でした。

ポイントとなったのは、事件当時新時代の捜査方法として脚光を浴びつつあったDNA鑑定の信憑性でした。犯人の動機や犯行の手段と言った、通常の刑事裁判なら重要な論点となる点の解明がなされぬ中、容疑者逮捕の大きな決め手となったのは、MCT118法と呼ばれるDNA鑑定の結果でした。現に地裁から最高裁まで、このDNA鑑定の有効性などを認めて一貫して死刑判決を出した訳ですが、死刑執行された1年後の2009年に始められた再審請求では、驚くことにDNA鑑定の結果が否定されることになります。
再審請求を行った弁護側が、警察庁科学警察研究所が行ったDNA鑑定で使った写真を検証した結果、裁判資料として提出された写真が都合よく切り取られており、また補助点を書き入れていることで証拠能力を補強というか、”でっち上げ”を行っていることを解明し、裁判所もそれを認めることになりました。
普通なら再審請求が認められそうなところですが、現実は逆で、目撃証言や久間の自家用車のシートの繊維が、被害者の衣服に付着していた繊維と一致していたことなどを理由に、再審請求は悉く退けられる結果となってしまいました。因みに目撃証言に関しては、警察の誘導が疑われる経緯も判明しており、少なくとも本作を観た者としては、この裁判結果が極めて不当だったのではないかと感じることになりました。

実際の事件と創作をないまぜにして語る不謹慎を顧みずに言えば、本作で思い出したのは「落下の解剖学」でした。夫の死は妻による殺人だったのか、自殺だったのか、はたまた事故だったのか、真相は明確に解明されずにお話は終わりましたが、最終的に妻は無罪。同作を観て思ったことは、結局裁判と言うのは、事件の真実を神の如く完璧に解明するというよりは、証拠や証言にどれだけ真実相当性があるのかを争うゲームであると言うことでした。

本作で取り扱った「飯塚事件」にしても、久間が本当に真犯人なのか、別の真犯人がいるのかは、正直誰にも分かりません。分かっているのは、最高裁判決が確定し、それに基づいて死刑が執行されたことだけです。重要なのは、一人の人間の命を奪ってしまう死刑と言う刑を確定する最大の論拠となったDNA鑑定が、その後の再審請求では否定されたこと。勿論前述の通り、この鑑定結果がなくとも被告人が真犯人であるという結論は揺るがないというのが裁判所の決定な訳ですが、第三者的には全く釈然としない結果でした。

また、個人的に死刑制度にはどちらかと言えば賛成の立場でしたが、本作を観るとかなりその思いに疑問を持ったことも事実でした。勿論明々白々たる証拠がある凶悪犯を極刑にすべきだという思いも残るものの、技術的に完全に確立されたとは言えないような方法で鑑定された結果を論拠に死刑判決を出すというのは、どう考えても危険なように思えます。
なお、現在ではMCT118法によるDNA鑑定は行われていないそうです。

最後に作品としての総合的な感想ですが、まずは四半世紀も前の「飯塚事件」の自らの報道について、自ら検証を行って記事にした西日本新聞の英断に拍手を送りたいと思います。とかく事件発生時には多くのメディアが繰り返し繰り返し熱心に報道する事件も、年月とともに忘れられがちになります。勿論忘れてしまっても良い事件もあるでしょうが、この事件のように、司法制度とか死刑制度そのものに疑問を投げかけるような事件については、事件そのものやその報道を検証することが必要な場合もあるかと思います。これはメディアだけの問題ではないかも知れませんが、日本ではとかくこの検証作業が疎かにされがちで、そのために問題の本質的な解決が出来ないことが往々にしてあります。
昨今話題の自民党の裏金問題も、事件の解明がきちんとされぬままに政治資金規正法改正の話が先行しています。問題の検証もしないのに、法律を変えたって意味はない訳ですが、実際はそういう方向に進みつつあります。まあ裏金問題に関しては、メディアや野党が全容解明までしつこく粘り強く追及出来るかに掛かっており、またそうした姿勢を有権者が支持できるかにも掛かっている訳ですが・・・
いずれにしても、久間容疑者逮捕という方向を世論形成と言う点で補強する形となった西日本新聞が、自らの報道を顧みる行動を取ったのは、称賛すべきところだと思います。

また、当時の捜査関係者が取材に応じたことについても、一定の賛辞を送りたいと思います。題名にもあるように、彼らは警察官としての”正義”を追求した結果容疑者逮捕に至った訳です。しかしながら、再審請求においてDNA鑑定が裁判所からも否定されるなど、当時とは前提条件が異なる状況になってすら、きちんと取材対応したのは立派と言えると思います。惜しむらくは、DNA鑑定を行った科警研の関係者に対する取材結果がなかったこと。取材を申し込んだのか申し込んでいないのか、申し込んだけど断れられたのか、作品では触れられていなかったので実際のところは判然としませんでしたが、DNA鑑定こそが本件最大のポイントだっただけに、鑑定当事者の話は是非聞きたかったところでした。

2時間半を超える超大作でしたが、実に見ごたえのあるドキュメンタリーであり、そんな本作の評価は★4.5とします。

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鶏

4.0犠牲の想いを背負う正義と闇深い非を認めない権力

2024年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2024年劇場鑑賞29本目 優秀作 72点

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サスペンス西島

4.5利害関係の板挟み

2024年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

難しい

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てつ

4.0各々が正義を貫いた結果

2024年5月8日
Androidアプリから投稿

事件の細部って警察あまり公表しないので、おそらく他にもいろいろ事件の物証を把握しているんだろうとは思った 精神鑑定なんかもしてるだろうし...警察、検察、司法各方面これ以上やることはもう無いという結論なんだろう 出演してる元警察の人達も堂々としていて自信が有るようだった 例のカルト事件で狙撃された長官出て来てビビった どうやら映画を見ている側には先入観を与えない為か被疑者の人となりは全く有りませんでしたが、Wikiで調べると犯人に目星をつけられても無理は無いかなといった感じでした しかしDNA鑑定も万能では無いのですね 目撃証言ってアテにならないというのも聞いたことがあるので其の辺をハッキリさせて貰いたいと思いました ただ気になるのはその後同様の事件が起こっていないことと(保護者気をつけるようになったのかな?)冬の飯塚とか路面凍結しょっちゅうなので他所者の犯罪とは考えにくいのではないかと しかし見れば見る程分からなくなった
どうでもいいけどお膝元の飯塚の映画館で演ってないのはなぜ(?_?)

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ゆう

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